CAR BOUTIQUE HERITAGE

Nissan Fairlady Z HERITAGE

フェアレディZという存在

フェアレディZは、日産が世界に向けて送り出した「日本製スポーツカー」の名刺のような存在だ。

高価なスーパーカーではなく、日常生活の延長で頑張れば手が届く価格帯にありながら、ロングノーズ・ショートデッキの美しいプロポーションと、しっかりとした動力性能を備える。

そのバランス感覚こそがZカーの本質であり、半世紀以上にわたって多くのファンに愛されてきた理由でもある。

高級GTとライトウェイトスポーツの中間に位置し、「週末に郊外のワインディングまでひと走り」という光景がよく似合うクルマ。

それがフェアレディZのイメージだと言えるだろう。

S30〜Z31 ─ Zカーの誕生と成長

1960年代末に登場した初代S30フェアレディZは、日本だけでなく北米市場でも大きな成功を収めたモデルである。

当時としては手頃な価格でスポーツカーらしいスタイルと性能を提供したことで、多くの人にとって「初めてのスポーツカー」となった。

直列6気筒エンジンとFRレイアウト、比較的軽量なボディによる軽快な走りは、サーキットからラリーまで幅広いフィールドで活躍し、Zカーの名を世界に知らしめることになる。

その後のS130やZ31では排気量の拡大やターボ化が進み、快適性や装備面も充実していった。

スポーツカーとしてのシャープさに加えて、長距離ドライブを快適にこなすGT的な性格も強まり、Zカーは「スポーツGT」としてのポジションを確立していく。

Z32 ─ バブル期ハイテクスポーツの象徴

1990年代初頭に登場したZ32型フェアレディZは、日本のバブル経済が生んだハイテクスポーツの象徴的存在だ。

ワイド&ローなボディにV型6気筒エンジンを搭載し、ツインターボ仕様では当時として非常に高い動力性能を誇った。

4輪マルチリンクサスペンションや4WSなど、先進的なメカニズムも多数採用され、カタログスペックのインパクトは絶大だった。

重厚で安定感のある走りは、高速道路を長く速く走ることに特化したGT的なキャラクターを色濃く持っている。

一方で、ボディサイズや車重の増加は、先代までの素朴で軽快なZ像とは異なる方向性でもあり、「ハイパワーGTとしてのZ32」と「ライトなスポーツとしての旧型Z」を好む層で評価が分かれた面もある。

だが、いま振り返るとZ32は、バブル期の技術とデザイン精神を凝縮した、きわめて時代性の強いZカーだと言えるだろう。

Z33・Z34 ─ 手の届くFRスポーツへの回帰

2000年代に入り、Z33型フェアレディZとしてZカーは再び生まれ変わった。

ここで掲げられたコンセプトは、初代S30以来の「手の届くスポーツカー」への回帰である。

2シーターのコンパクトなボディにV6エンジンとFRレイアウトを組み合わせ、複雑なハイテクメカニズムを削ぎ落としたZ33は、ドライバーとの一体感を重視した現代版Zカーとして登場した。

続くZ34では排気量アップなどにより動力性能が高められ、シャシーの熟成とともにGT的な余裕も増していく。

Z33がやや荒削りなピュアスポーツ寄りだったのに対し、Z34は大人のスポーツクーペとしての性格が強く、NISMO仕様などはサーキットでのパフォーマンスにも重点が置かれている。

いずれの世代も、Z32で一度豪華になりすぎたZカーを、より身近な存在に戻そうとした試みだと捉えることができる。

新型Z(RZ34) ─ レトロモダンと現代性能の両立

2020年代に登場した新型Z(RZ34)は、Zカーの歴史を意識したレトロモダンなデザインと、現代のターボV6エンジンを組み合わせたモデルである。

フロントマスクやテールランプの意匠にはS30やZ32のモチーフが散りばめられ、ひと目で「Zだ」とわかる存在感を放つ。

一方で、インテリアは最新のインフォテインメントシステムや安全装備を備え、日常ユースにも応える使い勝手が意識されている。

走りの面では、ターボV6の厚いトルクとFRレイアウト、そして現代的な電子制御デフやスタビリティコントロールが組み合わされ、従来よりも高い総合性能を持つスポーツクーペへと進化した。

Zカーの伝統を守りつつ、現代の安全基準や環境性能に対応させた「今の時代の答え」としてのZがここにある。

メカニズムと走りのキャラクター

フェアレディZのメカニズム上のキーワードは、FRレイアウトと前後バランスの取れた重量配分にある。

初期のS30〜Z31では直列6気筒を縦置きし、比較的シンプルな足回りと組み合わせることで、素直でわかりやすい挙動を実現していた。

Z32ではV6エンジンとマルチリンクサスペンション、電子制御4WSなどを採用し、高速安定性とグリップ重視のハンドリングへとシフトする。

Z33・Z34、新型Zでは、V6FRの基本は維持しつつ、ボディ剛性向上やサスペンションジオメトリーの見直しによって、限界域でのコントロール性を高めている。

総じてZカーは、「誰が乗ってもそれなりに速く、運転がうまくなったように感じられる」フレンドリーさを重視しており、その意味でドライバーへの敷居は比較的低いスポーツカーだと言える。

現代の視点で見るフェアレディZ

現代のスポーツカー市場では、電動化やAWD化、高度な電子制御が進んでいる。

そのなかで、フェアレディZはあくまでFRレイアウトと内燃エンジンにこだわる一派として生き残っている。

ボディサイズは世代を追うごとに大きくなったものの、2シータークーペという基本フォーマットは崩さず、運転席まわりのタイトさやコクピット感覚は変わらない。

快適性や静粛性は世代ごとに向上し、特にZ34以降は日常の足としても使いやすいレベルに達しているが、その根底には「走りを楽しむためのクルマ」という思想が息づいている。

最新のスポーツカーと比べれば、電子デバイスに頼りすぎない自然な挙動や、エンジン音と振動をダイレクトに感じられる感覚が、Zカーならではの魅力として際立っている。

GT-Rとの関係から見えるZのポジション

日産のスポーツモデルを語るとき、どうしてもスカイラインGT-RやGT-Rとの関係が気になるところだ。

GT-Rがタイムや絶対性能、テクノロジーの粋を集めたフラッグシップであるのに対し、フェアレディZはより身近な価格帯でスポーツドライビングを楽しめるポジションを担ってきた。

駆動方式も、GT-Rが4WDを採用しているのに対し、Zは一貫してFRであり、より「操る楽しさ」に比重が置かれている。

サーキットで最速を目指すならGT-Rという選択肢になるかもしれないが、日常と非日常の境目を曖昧にしながらスポーツカーライフを楽しみたい人にとって、Zはちょうどいい落としどころなのだ。

こうしたブランド内での役割分担も、Zカーのキャラクターを理解するうえで重要なポイントだろう。

フェアレディZを選ぶということ

フェアレディZを選ぶというのは、「スポーツカーと暮らす」ことを現実的なラインで叶えたい人の決断かもしれない。

S30のクラシックなスタイルに惹かれるのか、Z32のバブル期ハイテク感を楽しみたいのか、Z33・Z34のV6FRスポーツを堪能したいのか、あるいは新型Zのレトロモダンな世界観に共鳴するのか──世代ごとに表情は違っても、その根底には「手の届くスポーツカー」という共通の精神が流れている。

維持費やランニングコストの具体的なイメージについては、GUIDE「日産フェアレディZの維持費とランニングコスト完全ガイド」も参考にしてほしい。

グレードや年式ごとの選び方、予算感の目安については、GUIDE「日産フェアレディZ中古の選び方と失敗しないポイント」で詳しく解説している。

よくあるトラブル事例や、長く付き合ううえでの覚悟ポイントについては、COLUMN「日産フェアレディZのよくあるトラブルと維持の覚悟ポイント」を読んでから考えたい。

合理性だけを追い求めるなら、スポーツカーという選択そのものが外れてしまうかもしれない。

それでもZのロングノーズに心を奪われたなら、その時点であなたはもうZカーの物語の一部になっていると言えるだろう。